2026年3月24日

ピロリ菌を退治したからもう安心?専門医が警鐘を鳴らす「除菌後の落とし穴」
こんにちは、健都はやしクリニックです。胃がん連載コラムの第2回目です! 前回は「胃がんの初期は、実は無症状である」という、知っておかないと怖い真実をお伝えしました。
「症状がないなら、何を基準に自分のリスクを考えればいいの?」 そう思われた方にぜひ読んでいただきたいのが、今回のテーマ。胃がんの原因の9割以上を占めると言われる「ピロリ菌」についてです。特に「昔、除菌が終わったからもう胃の心配はない」と思っている方は要注意。実は除菌後こそが、本当の「見守り」のスタートなのです。その意外な盲点をお話しします。

1. 胃酸に負けない「驚異の菌」の正体
そもそも、ピロリ菌とはどんな菌なのでしょうか。 実は医学界でも、40年ほど前までは「強烈な酸がある胃の中に、細菌が住めるはずがない」と思われていました。胃の中は胃酸によって無菌状態だと信じられていたのです。
ところが、ピロリ菌には驚くべき仕組みがあります。 それが、「ウレアーゼ活性」という特殊な能力です。ピロリ菌は、胃の中にある尿素を使ってアンモニアを作り出し、自分の周りの胃酸を中和します。まるでバリアを張るようにして、過酷な胃の中で生き延びているのです。
問題なのは、この菌が尿素を分解する過程などで胃に持続的な炎症を起こし、粘膜をどんどん変化させてしまうことです。この「変性してしまった粘膜」こそが、胃がんが発生する最大の土壌になってしまいます。
2. 「除菌成功=リスクゼロ」という大きな誤解
最近では、数日間お薬を飲むだけでピロリ菌を退治できる「除菌治療」が一般的になりました。「菌がいなくなれば、もう胃がんの心配はない」とホッと胸をなでおろす方も多いのですが、ここが一番の注意点です。
私は、診察室で患者さんにこのように説明しています。 「除菌をすれば、確かに胃がんのリスクは下がります。でも、残念ながらゼロにはなりません。大切なのは、ピロリ菌に感染していた『期間』がどれくらいか、そしてどこまで広がっているかという点です」

ピロリ菌に長く感染していればいるほど、胃の粘膜を広範囲に変化させてしまいます。除菌によって「原因」である菌は取り除けても、すでに変化してしまった「土壌」が元の健康な状態に戻るわけではありません。例えるなら、「火事が消し止められた後の現場」のような状態です。 火(菌)は消えても、焦げ跡(荒れた粘膜)が残っている限り、そこから新たなトラブル(がん)が発生する火種はくすぶり続けます。一度炎症の跡形が強く残ってしまった方は、菌がいなくなった後も「胃がんのハイリスク群」として見続ける必要性があるのです。
3. 専門医が「除菌後」もあなたを診続けたい理由
「以前、除菌してもらったので大丈夫です」とおっしゃる患者さんもいらっしゃいます。 実は、かつては医師の間でも「除菌さえ成功すれば、もう安心だ」と考えられていた時期がありました。(除菌という治療法がでた当初は除菌後の長期症例のデータがありません)。しかし、研究が進んだ現在、その考えは変わりつつあります。
除菌はあくまで「これから粘膜が壊されていく原因」を止めたに過ぎません。除菌をした時点で、すでに粘膜のダメージ(炎症の跡形)がどの程度あるかによって、その後の発がんリスクが決まります。
「一度除菌したから終わり」ではなく、自分の胃にどの程度の「焦げ跡」が残っているのかを、専門医による適切な診察で正しく把握し、定期的に観察を続けること。がんを見逃さないための最も確実な備えなのです。

除菌は「ゴール」ではなく「スタート」
ピロリ菌は胃の中に住み着き、粘膜を「がんの土壌」に変えてしまう。
除菌に成功しても、一度変化した粘膜(炎症の跡形)は残り続ける。
除菌後の胃の状態(焦げ跡の程度)を把握しておくことが、今後の胃がんのリスクを左右する。
「除菌したから一生安心」と思い込んで、再び検査から遠ざかってしまうのが、実は一番もったいないケースです。
■さらに詳しく知りたい方へ
次回の予告:では、除菌後のリスクを抱えつつ、どうすれば初期がんを確実に見つけることができるのでしょうか? 次回は、【第3回:バリウム vs 胃カメラ。発見率3倍の差と、専門医が胃カメラを勧める明確な理由】をお届けします。健康診断でどちらにしようか迷っている方、必見の内容です。
監修

監修:健都はやしクリニック 院長 林史郎
資格
日本内科学会 総合内科専門医
消化器病学会 専門医
消化器内視鏡学会 指導医・専門医
膵臓学会
略歴
2018年 健都はやしクリニック開院
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